盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
富山盲ろう者友の会では、盲ろう者とその支援者の交流・支援活動を行っています。

現在の位置: ホーム > 盲ろう者と通訳技術 > 翻訳技術 概説 > テレビおこし > 視覚情報の入れ方1

視覚情報の入れ方1

本文開始


視覚情報の入れ方1_視覚情報・聴覚情報の順番

テレビおこし、いよいよデータ作りの話です。

やはり難しいのは視覚情報の入れ方だろうと思います。
何を拾うかも難しいのですが、拾った後の表現も難しかったりします。
悩むポイントは色々あるのですが、主なものを幾つか。

前置か後置か

動作の説明等で、補足の視覚情報を前もって書く場合と、後から書く方法があります。
例えば、
   太郎:これ食べてもいい?
   (落ちている柿を拾う太郎)
という書き方は、後置のパターン。逆に、
   (太郎、落ちている柿を拾う)
   太郎:これ食べてもいい?
という書き方は、前置のパターン。
つまらない例文ですが。
副音声では後置パターンが多いでしょうか。

順序の考え方

順序選択の考え方は色々です。
まず、動作の順序通りに書くという考え方。
太郎が柿を拾った後に尋ねたのなら、拾った情報を先に書く。
まあ、筋が通った処理だろうと思います。
しかし中には、順序通り書くと微妙なケースもあります。
それは以下のようなケース。
(1)分かりにくい場合
(2)浮く情報が出る場合
(3)流れが壊れる恐れがある場合
(4)ネタバレになる場合
他にもあると思いますが、まあとりあえずこんな感じ。

多少補足説明します。

(1)分かりにくい場合

先に多少説明しないと発言の内容が分かりにくい場合、逆に発言を先に書かないと説明がピンとこない場合などがあります。
そういう場合は、必ずしも画面上の順番にこだわる必要はなく、分かりやすさを優先します。
前に戻って読み直して初めて分かる、というデータは基本的に余り良くありません。
できるだけ、順に読んでスッと入る書き方を選びます。
声に関する形容情報なども、順番に迷う要素です。
   (花子、大声で叫ぶと同時に太郎に柿を投げつける)
   花子:帰って!
こういう場合、柿を投げたのも叫んだのも時間的に後ですが、順序を逆にすると、花子の台詞が最初は違ったふうに読み取られる気がします。
またまた意味の分からないシチュエーション例で申し訳ないですが。

(2)浮く情報が出る場合

「浮く情報」とは、それだけでは意味が取れない言葉や、前に出た情報から繋がっている事柄で、前の情報が抜けているために意味が分からなくなってしまう場合など。
発言内容自体が勝手に意味不明なケースは該当しません。
典型的なのは、動作を伴ったコレ・アレなどの指示語です。
多くの場合、視覚情報が無いと意味が分かりません。
先の太郎君の例でも、柿云々の情報が無ければ「これ食べていい?」は浮いた情報になります。
単語以外にも、場面描写等で説明されていない物に言及したり、視覚情報として拾わなかった動作に触れて会話が始まったりした場合は、なんらかのフォローをしないと、浮いたままの情報を残してしまうことになります。
ただ、指示語があれば浮くかといえば必ずしもそうではなく、先の例でも、
   太郎:これ食べていい?
   花子:落ちてた柿なんか、やめなさいよ。
と会話が続いていけば、「これ」は浮かない。
相変わらず、つまらない例文ですが。
この場合「拾う」という動作は抜けているわけですが、落ちている柿を拾ったか拾おうとしていることまでは推測できる。
視覚情報描写に限らず情報保障では、“常識的な判断で類推できる”ということは考慮に入れて構いません。

(3)流れが壊れる恐れがある場合

会話が複数続き、その会話自体のテンポを崩したくない場合があったとしましょう。
内容理解のためだったり、軽妙なやりとりを楽しむためだったり、理由は色々ですが、そういう場合は、あまり合間に視覚情報を挟みたくなかったりします。
しかし、足りない部分は補わなくてはいけない。
必然、入れやすい間を選んで入れることになってきます。
そして、その場所に合わせた表現法を工夫します。

(4)ネタバレになる場合

(1)の逆の例と言えるでしょうか。
情報として分かりやすい書き方だと、話が面白くなくなってしまう場合があります。
特にエンターテイメント系のテレビおこしでは、楽しいものは楽しく、スリリングなものはスリリングにおこす事も大事なので、必ずしも分かりやすさを優先せず、雰囲気重視になったりします。
そこは感覚的な判断にならざるをえないかもしれません。
総合的に考えてベストと思う表現を選択します。
すべて元ネタによってという感じですが、難しいものほど楽しいというのも本音。
と言っても、これ無理…という場面では楽しむ余裕は無いですが。
ちなみに、難しいのはエンターテイメントもの。
中でも意外と難しいのがアニメ。
アニメは、現実を超えた演出がいくらでも可能なので、それを文字だけでイメージできるようにと思うと、文字の限界を感じます。
『サザエさん』ぐらいでも回によってかなり難しいです。

ざっと述べました。
他にもデータを作っていく中で、迷うことが出てくると思います。
どう入れても収まりが悪く、できれば抜きたいけど抜くとギリギリ読めなくなるかも…とか。
あまり懲りすぎると時間が果てしなくかかって大変ですが、ギリギリまでは粘って工夫してほしいかなとも思います。
たぶん、その推敲の過程が大きな経験になると思いますので。

ちなみに、最初の例では、(落ちている柿を拾う太郎)・(太郎、落ちている柿を拾う)という2種の表現を入れました。
どちらのパターンも使います。
読みやすさ、誤解のなさ、語感などから選べば良いと思います。
場合によっては、人物名を入れずに読ませることも可能です。
できるだけスッキリと、視覚情報を充分入れつつもテンポや流れを保って読めるようなテレビおこしが、良いテレビおこしかなと思っています。


Last Update 2010-06-03 (木) 12:44:03

本文終了

powered by Quick Homepage Maker 4.27
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional