盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
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盲ろう通訳2 盲ろう通訳のタイムラグと会話のズレ

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盲ろう通訳2 盲ろう通訳のタイムラグと会話のズレ

先の記事「発言の方向をどう伝えればいいか」の追記です。
通訳のタイムラグに絡んで、実際に現場で起こった例を紹介します。
タイムラグが変な形で噛み合っちゃうパターン。

例えば、とある現場での司会者と盲ろう者Aさんの こんな会話。
司会者が物品の購入リストについて説明した後の会話です。

司会:他に必要なものって
何かありますかねえ?Aさん?
(1秒ちょいの間)
司会:こんな感じで いいですか?
A:あ、はい。
司会:じゃあ、この線で…
A:えー、1つ気になったんですが…(上の司会者の発話とほぼ同時)

細かい発話は実際と違いますが、大体状況が伝わるでしょうか。
Aさんの「はい」という返事が、何に対する返事かというのがポイントです。
同じ会話で、通訳の状況を下に書き込んでみます。(青い字がその時打ってる部分)

司会:他に必要なものって
     しかい:ほかに ひ 
何かありますかねえ?Aさん?
     しかい:ほかに ひつよーな もの 
(1秒ちょいの間)
     しかい:ほかに ひつよーな もの ある?Aさ
司会:これで、いいですか?
     しかい:ほかに ひつよーな もの ある?Aさん?
A:あ、はい。
司会:じゃあ、この線で…
A:えー、1つ気になったんですが…(上の司会者の発話とほぼ同時)

通訳のラグと会話のタイミングが変に噛み合っちゃったのが分かるでしょうか。
Aさんの「はい」という返事は、自分に呼びかけられたことへの応答だった。
それが、次なる「これで、いいですか?」という質問に対する承諾の返事に聞こえてしまった。
これ、実際に凄く見事なタイミングで はまりました。
逆に、それだけピッタリのタイミングで会話が成立している時点で、相手も あれ?と思っていいところなんですが、そこは、通訳を入れての会話への慣れの問題もあって。

通訳内容も実際とは少し違うので、通訳文章に対する細かいツッコミは勘弁していただきたいのですが、ちなみに、ラグゼロが求められているシチュエーションだという認識はあったので、かなり猛ダッシュで打ちました。
でも、間に合わなかった。
このケースでは、Aさんが話し出したのに司会者が気づいて結局問題なく会話が進みましたが、通訳としては焦りました。
Aさんに向けられた発話であるという情報を早めに入れておけば、もうちょっと対応しやすかったかなと思っています。(で、昨日の記事に繋がる)
実は、その時も打ちながら、途中で入れようか迷ったのですが、やはり非発話情報を入れることへの逡巡があり。
そして、Aさんに向けた発話であるという確証がイマイチ持てなかったのもあり。
(司会者の正面がAさんで、自然に顔を上げただけでAさんを見ているように見える状況。それまでも何度か、Aさんを見ながら他の人に話しかけてた。Aさんの様子を気にしながら…ということなのかもしれない)
それとも何かもっと良い通訳あったかな?

こういう、通訳のタイムラグによる会話のズレというのは、盲ろう通訳では割とよく起こります。
ラグをかなり抑えても、会話がずれたり、発話が重なったり…。
読み取った瞬間に利用者がリアクションするとは限りませんし(利用者にも発話までの思考ラグがある)、それらの時間差が重なると、状況は更にややこしくなります。
ある程度は仕方ないのかもしれませんが、利用者がリアクションしやすい通訳方法については、もっと考えないといけないだろうと思います。

ちなみに上のケース、司会者がそのまま進むようなら、「待って」と言っていたと思います。
通訳者が横から口を出すのは極力避けたい考えなのですが、通訳状況と場の状況の両方を知っているのは通訳者だけなので、こういう場合は止めるのも役割かと。
ただ、これは、このケースは通訳として善処したと一応思っているから言ってます。
通訳の遅れが完全に通訳者のせいなのに、「通訳まだ追いついてないです」とか言って流れを止めるのは、私は同意できないです。
それは、通訳者の不出来への配慮を場の人に求めることになり、筋が通らないのではないか。
だったら通訳者が未熟な場合は利用者は不利益を被るしかないのかと言われると、ちょっと困るのですが。
まあ、限られた人数の場なら、どちらの考え方も出来るかもしれませんが、一般の講演会を盲ろう者が聞きにいった場合などでは、さすがに流れは止められませんので、止まってもらえないと通訳できないと言うのでは対応できなくなっちゃいますね。
現実には通訳者の数の確保自体に様々な課題がある状況なので難しいところですが、少なくとも、この問題を“考える”ことは情報保障を担う者の責任かなと思います。


Last Update 2010-06-03 (木) 12:04:07

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