要約筆記技術5 手書要約筆記の技術分類
要約筆記技術5 手書要約筆記の技術分類
では、要約筆記の技術を少し具体的に見ていきます。
ここからは手書要約筆記に限定して話を進めます。
PC要約筆記でも点訳要約筆記でもノートテイクでも、要約筆記の考え方や技術の原理自体は共通しているのですが、個々の処理に際しての判断基準はそれぞれ違うものになりますので、技術的には区別して考えます。
手書要約筆記にしても、利用条件によって判断の仕方が色々違ってくるのですが、それを言うと話がややこしくなるので、今は出来るだけ一般的な条件(不特定多数の一般成人を対象とし、特別な目的が存在しない等)を前提にして考えます。
一応、上に出した用語を補足しておきます。
- 手書要約筆記は、多人数を対象とした手書きでの要約筆記。主にOHPを利用し、透明シートにマジックで書いた文字をスクリーンに映し出す形で提示します。
- PC要約筆記(パソコン要約筆記)は、パソコンで入力した文字を映し出す方法。1人で入力する方法、複数の通訳者が連係して入力する方法に大別できます。
- 点訳要約筆記は、盲ろう者の中の点字ユーザー向けの要約筆記で、仮名文字・分かち書きという点訳スタイルでの要約筆記を指します。利用者はピンディスプレイで情報を受信します。
- ノートテイクは、個人もしくは少人数を対象とした要約筆記を指します。手書き、パソコンなど、手段は色々。技術的には、利用者が特定されている点がポイントになります。
他にも色々なタイプの要約筆記が存在しますが、技術的な意味では上の4系統に分類できましょう。
新しい要約筆記のタイプについては、また追々。
では本題です。
手書要約筆記の技術。
主な技術は、表記技術・変換技術・要約技術の3種に分類できます。
簡単に説明していきます。
表記技術とは、文字の書き方・漢字仮名の使い分けなどによって、情報を圧縮する技術です。
改行・文字間の使い方、句読点・鍵括弧の使い方など、同じ情報をより誤解なく読みやすい形で提示するための技術もここに含まれます。
圧縮の原理としては、同じ内容を表出するために要する時間の短い表記を選択することで、筆記時間を短縮します。
筆記時間の短縮により、時間当たりの情報提示量を向上する効果、即時性向上の効果が得られます。
変換技術とは、言葉を置換する技術。
言葉から言葉への置き換えの他、文要素の一部省略の中で言葉から無語への置き換えに当てはまる場合も、ここに含まれます。
「“けれども” と聞いて “けれども” と書くな」と言ったりしますが、言葉の変換は要約筆記では不可避です。
ただ、これは明らかな不可逆処理。
言葉を変えることで、原話のニュアンス、話者の意図を損なってしまわないよう、充分な配慮が必要です。
実際、要約筆記を見た話者が「私はそうは言ってない」と仰って、問題になるケースがあります。
そこで「要約筆記とは、そういうもの。もっと要約筆記を理解してほしい」という意見があったりするのですが、それは違うと私は思います。
話者に、こんな要約筆記なら付けてほしくないと思わせるような要約筆記では駄目じゃないかと。
情報保障の発展のためにも、話者にも利用者にも信頼される通訳でありたいものです。
そして、よほどの悪条件でなければ、話者の意図を尊重し、かつ確かに情報を保障することは、ある程度両立すると思っています。
「ある程度」と言ったのは、要約筆記にはツールとしての限界があるのも確かだからですが、おそらくトラブルの多くは、そういう限界ラインでの問題ではないでしょう。
要約筆記への理解を求めることも場合によっては必要かもしれない。
ただ、それをしたいのならば、なおさら確かな技術と知識を持たなければいけないでしょう。
通訳技術の未熟を棚に上げて、利用者受益の問題にすりかえてはいけませんね。
先の問題でも、要約筆記者側に情報保障における信念と確かな技術理論があり、「ここの部分は、こういう目的で、これを優先したために、この処理になった」という説明がきちんと出来たなら、あるいは話者の方も理解してくださったのではないか。
要約筆記者には、そのくらいの確信を持って仕事をしてほしいとも思います。
脱線しました。
最後、要約技術とは、話の内容を整理し概括する技術です。
一般的に言う要約筆記の定義での「要約」とは、この技術に近いかと思います。
3つの技術を概説しました。
要約筆記は、これらを駆使して情報の圧縮を行います。
もちろん、技術を機械的に使うわけではなく、それぞれの処理のメリット・デメリットのバランスを考慮し、その時その時の情報の優先順位を含めて総合的に検討した上で個々の判断をしていきます。
その検討・判断を瞬時にしなければいけないところが、同時通訳である要約筆記の難しさの一つです。
Last Update 2010-06-03 (木) 11:46:57
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