かけはし26
かけはし26
(2021年5月発行)
目次
会長挨拶
九曜 弘次郎(全盲難聴)
しばらくコロナウイルスの感染が落ちついたかにみえましたが、またまた感染が拡大しています。しかも今度は変異ウイルスが現れました。当会も、3月・4月と活動を再開していましたが、4月の後半から活動休止を余儀なくされています。いったいいつになったら元の生活に戻れるのでしょうか。
さて先日、宮城県聴覚障害者情報センター(愛称:みみサポみやぎ)主催の、盲ろう者向け生活訓練事業にお招きいただき、お話をさせていただきました。テーマは『盲ろう者のオンラインの可能性と展望』ということで、これまでオンラインの会議や講演会に参加した経験をお話ししました。といってもこのようなご時世ですので、私は富山からオンラインで講演を行い、現地の盲ろう者は会場に集まっていただき、それぞれの盲ろう者に通訳・介助員が通訳を行うという態勢で行いました。これまでオンラインの会議や講演会に参加したことはありましたが、自分が講演するのは初めてです。オンラインでは会場の反応がわからないので、ほんとうに聞こえているのだろうか?伝わっているのだろうか?と不安になりました。そこで、一方的に話をするのではなく、会場の盲ろう者にこれまでオンラインのイベントや会議に参加したことはあるか、参加したことがある場合はどのような方法で参加したかを聞きながら話を進めました。なかには既にオンラインによるミーティングを経験している盲ろう者もいましたが、ほとんどの場合オンラインからの音声や映像をそばで通訳・介助員に通訳してもらうという手法で参加されていました。やはり盲ろう者が完全にオンラインというのは難しいようです。盲ろう者にとって直接触れあうことが大切です。
この講演を行ったのは、3月12日で、東日本大震災から10年目の3月11日の次の日でした。参加盲ろう者のなかにはこの震災で家が流された方もいました。私は数年前、実際にその現場に足を運んだことがあります。オンラインは便利ですが、それだけでは得られない、現地に行くことで感じられるものもたくさんあるように思います。早くコロナが終息して、自由に出かけられるようになるといいですね。
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盲ろう者と就労
(編集部)
今回の特集は「盲ろう者と就労」です。盲ろう者の就労率は、とても低いのが現状です。視覚と聴覚両方に障害がある人の就労には、大きな困難がともないます。まず、九曜会長とT.O.さんに、今の働き方や働く中で感じることを書いていただきました。
盲ろう者の就労の課題と展望
九曜 弘次郎
私は全盲難聴の盲ろう者です。目はまったく見えません。耳は、人工内耳と補聴器で多少聞こえますが、健聴者と同じように聞こえるわけではなく、通訳のサポートを必要としています。
盲ろう者の就労について、私自身の経験からお話ししてみたいと思います。
盲ろう者が働くときのハードル
障害者が働くことにはさまざまなハードルがあります。視覚障害者の場合、通勤など移動の困難、書類の読み書きができないことによる困難があります。聴覚障害者の場合、コミュニケーションの困難があります。障害を受けた時期によっては文章の読み書きが苦手という人もいます。
このように単独の障害でも困難はあるわけですが、単独の障害者であれば視覚支援学校や聴覚支援学校等で職業訓練が行われてきていると思います。
しかし、それはあくまでも単独の障害者のみを対象にしているケースがほとんどです。視覚障害者が聞こえなくなったり、あるいは聴覚障害者が見えなくなったりすることで、職場を辞めざるを得なかったという話はよく聞きます。私自身、就職活動をしていたとき、視覚障害者の働く職場にハローワークを通じて応募しようとしたところ、「聞こえない人はコミュニケーションが取れないので困ります」といって断られた経験があります。
テレワークのメリット
私は現在テレワークで自宅で仕事をしています。そのため通勤の必要がなくその意味では盲ろう者に適しているといえます。
職場には15人ほどのスタッフが働いており、半分ぐらいは視覚障害者です。会社を設立した社長自身も全盲の視覚障害者です。そのため、見えないことに対する配慮はされています。例えば、見えなくてもパソコンを使って見積書や注文書などの書類の作成ができるシステムが導入されています。
苦労とサポート
しかし、盲ろう者は私一人です。そのため、コミュニケーションに対するサポートはまったくありません。朝礼や社内勉強会は音声のみで、文字による通訳はまったくありません。
さらに、職場は視覚障害者向けの機器やソフトウェアなどを販売しており、顧客の大部分は聞こえる視覚障害者、もしくはそれをサポートしている方です。視覚障害者は音声を重視します。そのため電話で、その使い方や、購入、修理の相談などに応じています。人工内耳のお蔭でなんとか電話での対応をこなしていますが、お客様の話し方や電話の状態によってはとても聞き取りづらいことがあります。機器の使い方の説明も、電話から聞こえてくるパソコンや音声読書機が読み上げる音声を聞きながらサポートをしています。さらに、商品の注文を受けるときは、お名前や住所を正確に聞き取らなければならず、とても神経を使います。何度かお名前や住所を聞き間違えて配送が遅れたり、最悪宛先不明で戻ってきてしまったこともありました。お客様にご迷惑がかかりますし、また、再配達で余分な配送料がかかれば会社に損害をもたらすことにもなります。
私の職場では、点字ディスプレイや、画面読み上げソフト、触読式の時計など、視覚障害者だけでなく、盲ろう者にとっても役立つ機器を販売しています。このような機器やソフトウェアを盲ろう者にとって使いやすいものにするためには、盲ろう者自身が積極的にかかわっていくことが大切だと思ってこの仕事を選びました。
社長によると、会社に寄せられる問い合わせの大半が電話によるもので、インターネットからの問い合わせはほとんどないそうです。正直いうと、私としてはメールなど文字を使って対応したいところなのですが、このような会社の状況なので、私も電話での対応をせざるを得ません。もし電話ができなかったとしたら、果たしてこの職場で働くことができるのだろうか?と考えることがあります。ですから、障害者が能力を発揮するためには、適切なサポートが得られることが絶対条件ではないかと思うのです。
どこでもサポートを得られる社会に
昨年10月1日より、盲ろう者を含む重度障害者等の通勤や職場等における支援を行う国の新制度が開始されました(※)。しかし、この事業は地域生活支援事業での枠組みのため、この事業を実施している自治体は少なく、実施を表明している自治体でも実際にはまだ行われていないのが現状のようです。盲ろう者が働くためには、通勤時の移動介助、通訳などコミュニケーションの保障、そして書類の読み書きの支援が得られることが不可欠です。どの地域でも、どの職場でもこのような支援が得られ、盲ろう者が自身の持てる能力を最大限に発揮して社会で活躍できる世の中になってほしいと願っています。
※「雇用施策との連携による重度障害者 就労支援特別事業」
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盲ろう者と就労について
T.O.(弱視難聴)
「障害者、成長のエンジンに」
2021年3月2日付日本経済新聞に「障害者、成長のエンジンに」と題する記事が掲載された。冒頭に「障害者が会社の成長のエンジンとして活躍するケースが目立ち始めた。障害があることをハードルとだけとらえるのではなく、多様な発想の源として積極的に動いてもらうのが肝だ。社員一人一人才能を生かせる環境整備が一段と求められる中、健常者と同様のパフォーマンス発揮には会社側の支援も欠かせない」とある。
機能訓練指導員として
私は介護施設で、機能訓練指導員としてマッサージをしている。介護施設におけるマッサージは見聞する限り、「主要業務」としてのマッサージ、もしくは「併用業務」としてのマッサージに分かれているようである。私の方は併用業務の方だ。併用業務はマッサージ以外にも行う業務があり、またそれを行うことを望まれている。以前いた健常の機能訓練士は、送迎車の運転や施設保全をされていたという。私はマッサージに特化して業務が行えていてありがたいのだが、逆に言えば、施設の期待に十分に応えていないのかもしれない。
介護施設で働く事になった時、ある方から介護施設は時間ごとに物や人の位置が変動するから視覚障害があると大変だと言われた。私のいる場所は、最大85人入る広さのデイサービス施設で、50人から75人の利用者がこの空間にいる。私が覚えているのは基本的に、利用者のいるテーブルの場所と利用者の感触なので利用者が別の場所にいるとわからず探すことは普通にある。
はじめは利用者のお茶くみや配膳もやっていたが、朝のお茶くみ以外は外していただいている。施設は手書きがメインで私には拡大読書機がついた。盲学校から職員を採用していた時期がありその方が使っていたものらしい。マッサージは、入浴やレクリエーションの合間に、20人から30人の利用者に対して行う。一人一人の希望を聞きながら時間を調整するので、なかなかたいへんだ。
盲ろう者の就労のために
介護福祉士の実技試験には今はわからないが昔は視覚障害者のガイドの項目はあり、聴覚障害者に関する項目は今もあまりないような気がする。今ここでテーマとなる盲ろう者を介護するとなると手探りの状態になるだろう。逆を考えると盲ろう者が介護職に就くと仮定すると、どのようなサポートが必要になるのであろうか。
先程の新聞記事は、企業は障害者へのサポートを行い健常者と同等の戦力として活用していくとの趣旨で書かれているが、そうした意識改革はどの職場でも起こるとは限らない。盲ろう者の雇用を含めて、職場の意識改革を後押しする仕組み、例えば法律・制度を整えそれを潤滑に行えるように、国や自治体は支援体制を作っていくべきではないだろうか。
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東京では?
(編集部)
盲ろう者の就労は、大都市・東京ではどうなっているのでしょうか。現状を、東京盲ろう者友の会理事長の藤鹿 一之さんに聞きました。
(編集部)
盲ろう者の就労は、ほかの障害と比べてもきびしい状況ですね。
(藤鹿)
盲ろう者にとって、最大の問題は就労と教育ですね。
東京都の派遣に登録している盲ろう者の就労状況については、データはありませんが、厳しいのは確かです。全国的には65歳未満の盲ろう者の就労率は2割程度と言われています。派遣事業の登録の盲ろう者は高齢者の割合が多いこと、派遣事業を使う人はより障害が重い人が多いことなどから、それよりもさらに就労率は低いと考えられています。
(編集部)
就労が進まない原因のひとつは移動ですね? 富山では、通訳・介助員が就労目的で派遣されることはありません。
(藤鹿)
東京も通勤のために派遣事業を利用することはできません。単独で通勤できることが条件となる場合が多く、就労に繋がるのは比較的、障害の軽い盲ろう者になります。職場の最寄り駅までは自力で行って、最寄り駅から職場の往復は同僚に移動介助をしてもらっている盲ろう者もいますが非常に厳しい状況です。
(編集部)
東京では、盲ろう者の就労支援を行っているということですが。
(藤鹿)
東京都盲ろう者支援センターでは、就労支援というより、相談事業の中で就労に関する相談があれば、情報提供や職業訓練等ができる場の紹介等をしています。
(編集部)
ありがとうございました。
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働く事例 ~『コミュニカ』から~
(編集部)
全国盲ろう者協会が発行する『コミュニカ』No.62(2021年春号)では、特別企画「新たなスタート~盲ろう者の就職~」の中で二人の盲ろう者に寄稿してもらっています。以下は、編集部でまとめた記事の紹介です。『コミュニカ』は、富山県聴覚障害者センターの、友の会のロッカーに入れてあります。興味のある方は、読んでみてください。
教員として ~橋本 紗貴さん(弱視難聴、熊本)~
橋本さんには、視覚障害、聴覚障害のほかに両足と右手が動かない肢体障害があります。
活字の明朝体は見えにくく、特定のゴシック体なら読むことができるそうです。そのため、教員採用試験を受けるにあたって県教育委員会と話し合い、問題用紙や解答用紙をゴシック体に変更してもらうなど、「合理的配慮」をしてもらいました。特別支援学校(学級)の障がい者特別選考枠で試験を受け、合格。配属先の学校では、必要な機器類を学校で用意してくれました。教室では、カメラ等の機器や音をクリアにするスピーカーなどを使って、生徒の様子がわかるようにしているそうです。
大学事務職として ~森 敦史さん(全盲ろう、東京)~
森さんは先天性の盲ろう者です。母校の筑波技術大学の事務補佐員として働いています。 SNSへの大学の広報記事の掲載、メールマガジンの作成、学内資料の作成等をしているそうです。職場には、触手話が可能な支援員2人がいて、森さんが上司・同僚と会話する際の通訳や、作成した文書の体裁の確認等を担当しています。コロナ禍の現在は在宅勤務も多く、森さんは、「在宅勤務は移動(職場への通勤)の軽減による作業の効率化が可能になることに加え、就労の枠が拡大されることが期待できるというメリットがある」と語っています。
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活動報告
駅の無人化問題について
去年、JR西日本は、2030年度までに富山県内の9駅を無人化する計画を発表しました。人口が減ることによる労働力不足や利用者の減少に対応するため、としていますが、障害のある利用者からは不安の声が上がります。3月 20日の定例会では、会員がこの問題について話し合いました。
全盲難聴の九曜会長は、ホームから転落した経験があります。「急いで電車に乗ろうとしていた。止まっている電車に触って、入口を確認したつもりだった。しかし、入口だと思ったのは、カバーがつけられていない車両と車両の連結部分で、下まで落ちた。すぐに回りの人たちが気づいてくれて、運転士などに連絡してくれて、ホームに上がることができた。駅が無人化されるということは、駅員の人的サポートが得られなくなるということ。心配だ」。
このほか、会員からは、
- 障害者は、駅の窓口に障害者手帳を提示し切符を買っている。無人化になるとどうなるのか。
- 無人駅を利用するときは「前もって連絡下されば、社員が駅に行きます」と言われたが、急に予定が変更になった場合、困る。
- 無人駅になるとトイレも閉鎖されるらしい。腎臓が悪いので、用を足すところがなくなってしまうのは心配。
などの意見が出ました。
去年の12月、九曜会長は、富山障連協(富山障害者(児)団体連絡協議会)とJR西との話し合いに参加しました。今後も障連協とともに、無人化によって発生する課題や会員の要望をJRに伝えていきたいと考えています。
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こんな本読みました
(編集部)
「かけはし」では、盲ろう、聴覚障害、視覚障害に関する本を会員のみなさんにご紹介いただいています。今回は、社会福祉法人全国盲ろう者協会理事、東京大学先端科学技術研究センター教授である、福島 智さんについての本です。こんな本を紹介したい、というご希望があれば、編集部までお知らせください(tomonokai@toyamadb.com)。
『ゆびさきの宇宙~福島智・盲ろうを生きて』
生井 久美子著、岩波書店、2009年
S.I.
福島智さんの半生を、新聞記者が多角的に取材して綴った本です。福島さんは9歳で失明し、盲学校高等部のときに失聴しました。視覚も聴覚も奪われた福島さんを救ったのは、福島さんの母親が考案した「指点字」だったことは知られていますが、今回この本を読んで、さらに「通訳」の「発見」が重要だったことを知りました。
福島さんが盲ろうになって以降、盲学校高等部の授業では、同級生がブリスタを打って、福島さんに授業の内容を伝えてくれました。しかし「授業が終わり、友人が去ると自分から相手を探せない。無音漆黒の世界にまた独りぼっちに」なったのです。「コミュニケーションのスイッチが入ったり消されたり。それは本人の意思ではなく、相手の思うまま」であり、指点字で希望を見いだした福島さんは再び「絶望状態」に追い込まれます。
そんなある日、喫茶店の4人がけのテーブルに福島さんと先輩の女性が並んで座り、福島さんの向かいに友人が座って話す機会がありました。そのとき先輩の女性が、ふと発言者の名前と発言内容を、直接話法でリアルタイムで伝え始めたのです。盲ろう者が会話に加わる道が開けた瞬間でした。「この感激と驚き。やっと自分がこの世界に戻ってきた。いま、ここにいる気がした」。
盲ろう者にとっての通訳とは何なのか、あらためて考えた一冊となりました。
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総会が開かれます
富山盲ろう者友の会では、毎年6月に総会を開いています。今年は次の日程です。
日時 6月12日(土)13:00~
場所 富山県聴覚障害者センター
新型コロナウイルスの今後の感染状況によっては去年と同じ、メール等による書面表決になるかもしれません。最新情報は、メーリング・リストなどでお知らせします。ご注意ください。
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