盲ろう者とは目と耳両方に障害のある人のことをいいます。
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盲ろう通訳1 発言の方向をどう伝えればいいか

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盲ろう通訳1 発言の方向をどう伝えればいいか

盲ろう者への情報保障における、「発言の方向」の問題です。
人は、相手の視線や表情で、その発言が誰に向けられたものか、どういう効果を求めているものかを判断したりします。
盲ろう者の場合、相手の表情・視線・声の調子・声の方向などの情報が入ってきませんので(入ってきにくいので)、状況認識が非常に困難です。
この問題は、通訳者が相手の発言だけを伝えても、部分的にしか解消されない。
では、どうした良いのか。
BMチャット通訳(点訳要約筆記)の場合で考えてみます。
ちょっと長くなります。

全盲ろう者Aさんが居たとします。
発話者が「Aさん、どう思いますか?」と言ったなら良いのですが、単にAさんのほうを向いて「どう思いますか?」と言った場合、何らかの情報を補わない限り、Aさんは自分に質問されているとは分かりません。
補う場合には、問題点は2つ。
まず、「視覚情報として補うか、聴覚情報に混ぜて補うか」という問題。
そして、情報を入れる順番の問題。

まず最初。
視覚情報として書くか聴覚情報として書くか。
通訳の筋から言うと、相手が言わない言葉を発話の形で書くことには問題があるので、視覚情報の形で書くべきだという考えが成り立ちます。
では、視覚情報で書く場合、どう書いたら良いか。
入れ方は色々でしょうが、たとえば、
   司会:(Aさんに向かって)どう思いますか?
これで通じるかもしれないが、長い。
発言内容以外の筆記が増えると、通訳は苦しくなります。
特に、こういうリアクションを求める発言の場合、タイムラグを極力縮めることが求められます。
人数が少ない集まりなら通訳が遅れても待ってくれましょうが、そうでない場合は回答がないものとして先に進んでしまうでしょう。
通訳が原因で利用者が発言の機会を逸することは避けなければいけません。
理想を言うなら、ラグは1秒台に留めたい。
(「どうですか?」と聞いてから相手の返答を待つ時間は2秒ぐらいがイイ線。音声通訳ならどこまで通訳が進んでいるか周囲にも分かりますが、それ以外の通訳手段だと、今どの部分を伝えているのか周りの人は分からない。盲ろう通訳を理解している人なら、大体のラグが読めるかもしれませんが、通訳者によってもラグの出方は違うし。)
ともかく。
ただでさえ、「発言者情報」という発話音声以外の情報も入力しなければいけない盲ろう通訳において、タイムラグを1秒台に…というのは、厳しいラインです。
   司会:(Aさん)どう思う?
こう書いて、ラグ2秒ギリギリぐらい。(BMでコピペが出来れば他の技もあるが)

打開策としては、
   1.発言者の名前を略称にする。
   2.利用者の名前には敬称をつけない。
   3.何かルールを決めておく。
1は、小林「こ:」、佐藤は「さ:」のように進んでいく方法。
紛らわしくなければ使えばいいと思いますが、利用者の事前合意は必要だと思います。
2は、これ、使えばいいと思っているのですが、現場では結局入れてしまってます。利用者に敬意を払っているというよりは、発言者欄以外の部分で敬称なしで書くと違和感のある文になる場合が多くて…。(敬意が無いわけじゃないです^^)
3は、今後の検討課題。
利用者・通訳者ともに、はっきり共通認識を持つことが必要ですが、うまくルールを設定すれば、便利にカスタマイズされた通訳にもつながります。
今のケースであれば、利用者に向けた発言の場合だけ、それを示す記号を決めておくとか。
たとえば、コロン2度打ちで「あなたに言ってますよ」という意味にすると
   発言者::どう思いますか?
これは今適当に考えただけですが、とにかく何か早く打てる方法。
で、誤読の生まれにくい方法。
指点字の形でも分かりやすい(打ちやすい)パターンにするのも良いかもしれません。
慣れれば、短い伝達で同じことが伝わるほうが、お互いのためかなと思う。
要約筆記で言えば、特定個人対象のノートテイクで、この手の手法は使います。
盲ろう通訳も、今は個人相手の通訳が多いので色々取り決めることに問題はないのですが、BMチャット・ターミナル使って1対多数の通訳とかだと、利用者全員にルールの共通認識がないといけませんので、あまりローカルルールを増やすと適用が難しくなるかもしれません。
これはまた違う課題です。

聴覚情報として書くとは、相手が名前を呼びかけない場合でも、
   発言者:どうですか?Aさん?
と、ターゲット名を入れてしまうということ。
通訳者としては使うと便利な技なんですが、やはり、相手が言ってない言葉を混ぜてしまうことを是とするのは躊躇われます。

長くなりました。
次、情報を入れる順番の問題です。
発言者が名前を呼びかける場合でも、「Aさん、どう思いますか?」と言う場合と「どう思いますか、Aさん?」と言う場合では、通訳の考え方が変わってきます。
このぐらいの質問文なら、どう書いてもそれほど問題はないかもしれませんが、もっと長い質問がきて、最後に名前を言われる場合が問題。
長い質問の後に「どうですか、Aさん?」という情報が入ってきて、(え?自分かい?)となり、再度質問を聞き返すという展開になることは間々あります。
よって、通訳効果が高い方法としては、「誰に向けて言ってるか」という情報は、分かっているなら先に伝えたほうがいいと思っています。
これは、発言者が「これについてどう思いますか、Aさん?」と後から名前を言うかもしれなくても、関係なく先に入れよう、という話です。
相手の言葉よりも利便性を優先するということなのですが、これを良しとしてしまっていいのかは迷います。
同じ問題は音声通訳でもありますので、早めに事例検討をするべきでしょうね。
音声通訳の場合は、視覚情報と聴覚情報の区別が更につけにくいので考え方が難しいです。

2つの問題を見てきました。
もう1つ問題点を言うならば、発言者が利用者に向けて発言していない場合に、それを伝えるかどうか。
全員に言ってるという情報。
誰々さんに言っているという情報。
有ると無いとでは、そりゃ有ったほうが良いと思うのですが、当然、入れるには時間が必要。
「特定の個人に向いた場合には確実に伝え、それ以外は全員に向いている」とするのは妥当かどうか。
ここで結論は出せませんが、紛らわしい会話が並んでいる時には入れて、そうじゃないときは余力に応じて、というような処理になってきましょうか。

今の時点での私見を書きました。
まだまだ検討が必要な問題だと思います。
通訳者の活発な議論も期待します。


Last Update 2011-07-16 (土) 17:35:45

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