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Ⅰ-(ⅰ)情報保障と要約筆記

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Ⅰ 要約筆記とは

Ⅰ-(ⅰ)情報保障と要約筆記

情報保障とは

 情報保障とは、情報取得に何らかの障害がある者に対し、代替手段によって等しく情報を補填する行為を包括的に示す概念である。中でも身体的な機能の障害に起因して視覚情報・聴覚情報の収集が困難な場合の代替的情報提供手段を指す場合が多い。一般的に情報保障は単一もしくは複数の手段の組合せによって行われるが、同一利用者であっても、その時の目的あるいは元情報の性質等によって、最適な情報保障手段が違う場合も少なくない。効果的な情報保障の為には最適手段の選択が必要であり、被保障者自身が主体的に状況に応じて必要な手段を安定して選択できる環境が求められる。
 情報保障の本義から、情報保障手段の原理は「情報の等質な変換」と説明できる。ここで情報保障の対象となる「情報」とは、聴覚情報に関しては聴覚で感受し認識するもの全て、視覚情報に関しては視覚で感受し認識するもの全てとするのが観念的には適正である。ただし、情報保障技術の上では言語情報を優先的に扱うのが合理的であり実際的である。
 情報保障技術に関して、主に音声言語情報に関する情報保障行為は「通訳」、書記言語情報に関するものは「翻訳」という分類がなされることがある。広義の情報保障には外国語通訳・翻訳も含まれるが、一般的な外国語通訳・翻訳と視聴覚情報保障との大きな相違点は、扱う情報が言語情報にとどまらず、非言語情報や、情報の存在の有無自体の報知も含まれるという点である。

要約筆記とは

 要約筆記は情報保障手段の一つであり、聴覚情報を即時に文字情報(視覚情報)に変換する行為の総称である。筆記通訳とも呼ばれる。聴覚情報の全てを保障対象とするのが基本ではあるが、実際には日本語で発せられた音声情報を中心として扱い、その中でも特に、予め設定された対象の発言を優先的に扱うことが多い。したがって狭義の要約筆記は、「日本語発話の同時文字通訳」と定義できる。ただし、背景音や第三者の雑談などであっても、その場にいる大半の人間が当然に感受すると判断される音要素は、当然に保障すべき情報として扱われる。また表出の形式は日本で一般的に用いられる文字体系による表出が原則となるが、記号・絵・その他の図形描画も必要に応じて利用される。
 要約筆記は、聴覚障害者の中でも特に難聴者・中途失聴者の情報保障手段として用いられることが多い。通訳者自身は発言者とはならないという点で筆談とは区別され、記録を目的としていないという点で速記等とも区別される。他の情報保障手段と同様、通訳にあたっては時に聴覚障害者の持つ文化的背景を考慮する必要がある。文字情報を表示するための媒体は、OHP、紙、パソコン、携帯端末そのほか多様で、状況に応じて使い分けられる。
 なお近年は、電子機器の発達・普及とそれに応じたソフトウェアの開発により、要約筆記の表出手段は飛躍的に進化し、多様化しつつある。

要約筆記の目的

 要約筆記の利用目的は、聴覚情報の代替的取得にある。平たく言えば、「聞く代わり」。要約筆記文を読むことで、耳で聞くのと同等の感受が得られるかどうかが主要な評価基準となる。この基準は実証しにくく、感覚的な評価にならざるをえない側面があるが、要約筆記の本質とも言える基準であり、筆記の上での全ての判断の基になる。即時性・同質性といった要約筆記の要件も、これから導かれる。
 ここで問題となるのが、「同等の感受」の意味するところである。情報保障手段の原理は「情報の等質な変換」であると上で述べたが、情報変換における「等質」を厳密な意味での同値関係と捉えるのは適当ではない。要約筆記の効果は、表出文字情報の要素によってのみもたらされるわけではなく、共存視覚情報等も加味された上での総合的な効果として表れる。また、ヒトが情報を認知する過程では、様々な補完機能が作用する。評価の上では、それら副次的因子がもたらす効果を充分に考慮する必要がある。そうした意味から、要約筆記の評価は元情報と出力情報の等価性比較だけでは判断しえない。
 逆に要約筆記技術は、そうした心理的補完機能を計算に入れた上での情報処理技術となる。要約筆記において、情報の非可逆性が認容される理由もここにある。同じ理由から、要約筆記では情報の選択的知覚の側面も考慮に入れることになる。その意味で、情報保障では必ずしも情報要素を等価には扱わない。


Last Update 2011-05-07 (土) 14:21:25

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