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Ⅰ-(ⅱ)要約筆記の特徴

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Ⅰ-(ⅱ)要約筆記の特徴

要約筆記技術の要点

 要約筆記技術を解析するにあたり、まずは「日本語発話の同時文字通訳」という狭義の要約筆記の範囲を想定する。この場合、要点となるのは、「発話情報の文字情報への変換」、「同時通訳」。このうち「同時通訳」という要素は、それに起因した多くの物理的制約が要約筆記技術を根源的に支配し、その技術特性や処理基準の多くを決定付けるものとなる。また、発話情報と文字情報の間には、両媒体の性質の違いから、様々な情報特性の差異が存する。この差異のうち、要約筆記において重要な要素はおよそ2点。一つは情報の重層性の差、もう一つは単位時間当たりの表出可能情報量の差である。

情報の重層性

 発話情報とは、音声という媒体によって伝達される情報であり、言語情報のほかパラ言語情報・非言語情報などを含む重層的な情報である。これらの情報の伝達においては韻律情報が比較的大きな役割を持ち、そのことが発話情報の構造を更に複雑にしている。対して文字情報は、基本的には語彙要素(⊇音韻要素)を記号表記したものであり、比較して言うなれば単層的。したがって要約筆記においても、言語的な情報は文字情報へ変換しやすいが、韻律情報は文字化の過程で大幅に低減しがちである。また発話中の間(ポーズ)等の要素は意味内容伝達の上で重要な役割を担うが、これも文字情報に置換しにくい要素となる。こうした面は、要約筆記という情報保障手段の脆弱性と言える。
 とはいえ要約筆記技術も、表記選択および文構築の過程で、音素外要素の情報低減を是正する方向に機能する。逆に、音素情報の中でも特定の役割を持つ要素に関して、非言語情報と類似の基準で処理する場合もある(位相語の処理等)。特に手書き要約筆記においては、韻律情報の伝達が音素情報の同一性保持に優先されることも少なくない。手書きという特性を利用して、程度は微小であるが、パラ言語情報的な要素を直接的に表現する場合もある。また、文字情報自体も韻律情報を全く伝達しないわけではない。例えば同音異義語における単語同定ではアクセント情報は大きな判断材料となるが、その場合、漢字が選択され表記されることが即ち一定の韻律情報を含む情報を提供していることにもなる。
 情報特性の差異を是正する方向のこうした処理は、手書きを中心とした圧縮率の高い要約筆記においてむしろ積極的に行われる。本来は圧縮率が低い方が内容の充実度は高く設定できるが、一方で圧縮率の低い要約筆記では音素情報の同一性保持の面に評価傾向が偏りがちであり、筆記者裁量の自由度が低い側面がある。改めて記すまでもなく、韻律情報は要約筆記が対象とする情報に含まれる。こうした部分での情報保障技術は、今後改善の余地の大きい部分と言える。ただし筆記者裁量の自由度は情報伝達の恣意性・主観性につながりやすく、全体的に見るとデメリットと裏腹な要素となることにも留意は必要。また、この問題は、総合情報量とは別の問題である。
 なお、発話情報に含まれる韻律情報は、要約筆記技術の上で、技術者の判断要素としても重要である。特に接続詞や間投詞とその韻律情報の組み合わせは、開始コドン様の役割を担う。また、要約筆記における情報処理単位も韻律情報の影響を大きく受ける。こうした面から、要約筆記技術の解析の上で韻律情報の考慮は不可避な要素となる。

文字数・要約率・筆記速度

 発話情報と文字情報の差異のもう一つの問題が、「単位時間あたりの表出可能情報量の差」。この要素は、「同時通訳」という要素と相まって、要約筆記技術を根源的に支配する。では、単位時間あたりの表出可能情報量とは何か。情報を量として数値化するにあたっては課題も多いが、一つの目安として、単位時間あたりに表出可能な情報の文字数換算値がよく用いられる。
 要約筆記で扱う場合の「文字数」とは一般的に、漢字・仮名・句読点・記号等の区別によらず、独立した記号を全てカウントした数値で表される。発話情報の場合は、発話された音素要素を転写的に文字化し、標準的な日本語表記法(概ね公文書の表記法に準ずる)によって表した上で勘定する。要約筆記文の場合は、書かれた表記をそのまま勘定する。スペースは文字数には含まない。この方法でカウントされた文字数は当該情報の情報量を適正に反映しているとは言えないが、一定の相関はあり、何より扱いやすい数値であることから、文字数による評価は目安として便利な指標となる。
 なお文字数と関連して、「要約率」「筆記速度」という指標もしばしば用いられる。「要約率」とは、上記の測定法により原話(要約筆記の元となる発話)の文字数と要約筆記文の文字数を算出し、原話文字数に対する要約筆記文字数の百分率として示す。また「筆記速度」は、要約筆記文字数とその該当筆記時間によって算出される。指標としては分速(1分間あたりの文字数[字/分])を用いるのが一般的である。「圧縮率」は、要約筆記の過程で圧縮されたデータ量の割合であり、文字数を含む情報要素の変化量を包括的に示すものであるが、狭義の要約筆記では「要約率の残相当」とほぼ同義と捉えて問題ない。
 文字数指標を用いると、単位時間あたりの表出可能情報量は、「1分間にどれだけの文字数に相当する情報量の表出が可能か」という数字で表すことができる。これは実際の平均表出量とは別の概念で、一種の理想値。現実の表出量が、表出可能情報量を上回ることは無い。対象となる情報の入出量の値域を想定する上で有用な値となる。
 各媒体における単位時間あたりの表出可能情報量は、「最大表出速度[字/分]」と同義である。最大表出速度を時間積分すると、その時間範囲における表出可能情報量となる。したがって、最大の情報量を表出する条件は、最大表出速度を継続することであり、筆記の時間的空白があった場合には、それはそのまま総表出量減少に直結する。ただし、要約筆記行為の過程では必須ラグと呼ばれる必要空白時間があるため、最も望ましい筆記を行った場合であっても、実際に表出される量は表出可能量を下回る。


Last Update 2011-09-19 (月) 22:48:27

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