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Ⅰ-(ⅲ)要約筆記技術の原理

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Ⅰ-(ⅲ)要約筆記技術の原理

表出可能量のギャップと情報圧縮

 要約筆記は同時通訳であるため、要約筆記文の出力に使える時間は原話の発信時間と同スケールとなる。したがって、発信側の表出可能情報量が出力側の表出可能情報量を上回る場合、発話情報から文字情報への変換の過程で情報の圧縮処理が必要となる。発話側の表出可能量に関しては個人差が主であるが、表出側は、その手段によって値の上限が決まってくる。数値の目安としては、発話情報の場合はおよそ250~400[字/分]、手書き要約筆記では60~75[字/分]、PC要約筆記1人入力では120~150[字/分]といった規模となる。つまり、発信された情報と出力できる情報には量的なギャップがある。要約筆記では、一部の方法以外では発話の表出可能情報量が出力側の量を大きく上回るため、等質性を保った圧縮変換処理の技術が、要約筆記技術の中心となる。そしてその圧縮の度合は主に出力側の制限によって決まってくることになる。
 出力側の表出に関しては、ツール毎の特徴のほか個々人の技量差が大きい。値はその時点下の個人に由来し必ずしも上記範囲には当てはまらない。表出量が少なければそれに応じた圧縮率で表出すればよく、表出可能量の多寡は通訳の質と必ずしも相関しないが、出力量がある限度を下回ると通訳行為は極めて困難になる。
 また発話情報に関しては、表出量のペースは全く一定ではなく、時間によってその緩急は大きく変化する。発話側との情報量のギャップが大きければそれだけ圧縮率を高める必要が生じるため、圧縮率は取り扱う時間幅毎に変化することになる。当然、圧縮率が高いほど技術的な難易度は高くなる。 

内容含蓄度と必須要素

 しかしながら、先にも述べたが、表出可能量は一つの指標に過ぎず、文字量で表される情報量の度合と含まれる情報内容の含蓄度は一致しない。出力側の制限は圧縮率の決定には関与するが、実際の情報圧縮変換処理に際しては、原話の内容の含蓄度が主な問題となる。ここで言う含蓄度とは、内容の高度さ・本質的な重要性は意味しない。情報の中身を特徴付ける独立要素の多寡と、その分散度合いが含蓄度としての要素となる。同等の圧縮率の場合、独立要素が多いほど、分散傾向が強いほど、圧縮変換処理の難易度が上がる。また、圧縮変換には限界があり、一定の条件を超えた場合には、情報漏れの現象が起きる。
 すなわち、原話に含まれる内容の同質性を保つ為に不可欠な最小限の要素を、日本語として最低限の必須要素を用いて表現した上で、その表出量が出力側の表出可能スケールを超えたときには、欠損する情報が発生する。これは、要約筆記というツールが内包する限界である。ただしその場合であっても、情報欠損によるリスクを出来るだけ回避する方向で要約筆記技術は機能するため、情報要素の欠損が直ちに利用者の不利益には結びつくとは限らない。
 なお要約筆記では、複数の文章の要素を相互に利用した文構築を行うことで総合的な情報含蓄量向上を図るという操作を行う。したがって、文単位で見れば必須要素が欠損している場合であっても、それだけで情報の欠損云々を判断することは出来ない。

情報処理単位

 要約筆記では、基本的に情報処理は一定範囲の時間内で完結する。時時の原話を、時時に処理をし、後にずれ込ませない。ずれ込ませられないと言ったほうが正しい。この理由について明確な解は得られていないが、技術者の記憶、視覚情報とのリンク性、リスク回避の効果等の観点から、また技術者の思考効率の観点からも、時時的な処理を行うのが合理的であると考えられる。ここでの「一定範囲の時間」というのは、固定スパンという意味ではなく、ある程度限られたスケールという意味で、そのおよその範囲は発話の言語的な区切りが元となって決まってくる。その区切りのシグナルとしては、発話情報における基本周波数パターンの型との相関が強い。
 なお、ベーシックな技術ではないが、既出の情報を後から処理するという場合もある。自然発話の情報の含蓄度には経時的な緩急があるのが普通であるが、それを利用し、情報の含蓄度が低めとなった時に、既出部分の情報を補完するための処理を加えるというものである。新たに情報を付加する場合、部分的に既出した情報を補う場合、位相語などの付属的要素を付加する場合等がある。そう多くの情報を加えられるものでもないが、筆記の物理的制約の大きい、圧縮率の高い要約筆記においては、時に必須の処理となる。

圧縮処理方針と情報傾向の微分値

 情報処理は一定範囲の時間内で完結すると述べたが、その処理方針もまた、部位ごとに変化する。これには、発話の推移の様子と情報の含蓄度の変化が関係する。「話の流れ」と言われる要素と、少し重なる部分である。情報の含蓄度が増加傾向にある場合には圧縮率を高めにする方向で処理するというのが、その基本である。仮に発話内の情報含蓄度を時間を変数とする関数y=f(t)で表せたとするならば、ある時間t=aにおける微分値f’(a)が正の場合は圧縮率を高めて待機に重きを置いた処理をし、負の場合は、圧縮率をやや低めに設定した処理をする。その含蓄度の増減傾向の判断材料としては、発声音量の変化、発話スピードの変化などの情報が利用される。
 なお、基本周波数パターン、発生音量、発話スピードなどの韻律情報は、上記のほか、発話内容の推察、文構造の決定、句読点処理等、様々な筆記要素の判断基準ともなる。


Last Update 2011-09-19 (月) 22:55:16

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