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Ⅱ-(ⅱ)筆記の分類

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Ⅱ-(ⅱ)筆記の分類

質・量を書き分ける技術

 良い要約筆記とはどのようなものかという議論がしばしばなされるが、目指すべき要約筆記は一通りではない。話の内容、目的によって、また利用者個々人のニーズによって、理想となる要約筆記の形は変わって当然である。利用者の嗜好に細かく対応することは現実的ではないものの、目的に応じて書き方を変えるということは、当然考えていくべき技術である。
ここで、書き方の分類方法として、「書き口」、「要約率」という2つの要素を考える。
 「書き口」とは、言うなれば要約筆記の質的要素であり、「要約率」とは、要約筆記の量的要素である。この質・量の書き分けをうまく組み合わせて使うことで、目指すべき要約筆記の形をある程度柔軟に設定することができる。将来的には、利用者の注文に合わせた要約筆記を提供するというサービスにつながるだろう。
質・量を書き分けるにあたって必要となるのが、意識的に書き分けを行うための論理と、それに基づく共通認識である。特にチームで書く要約筆記においては、書き手が変更しても違和感なく読めるということも大切なポイントとなる。そのためにも、要約筆記者間での一定の認識の共有は不可欠であり、その基盤が明解に展開されることが求められる。
明解な基準を設定しようとする場合、ある程度抽象的な分類になることは避けられない。したがって当然、細かな書き分けまでを望めるものではないだろう。しかしながら、イメージレベルの認識であっても、それを共有し意識する意義は大きい。この共通認識は、利用者(依頼者)と要約筆記者との間の認識のギャップを埋める上でも有効に展開し得るものである。質・量の書き分けの工夫によって、よりきめの細かい情報保障サービスが展開されることを期待する。
 以下に、「書き口」、「要約率」それぞれの分類の考え方を示す。

書き口の分類 ― 質の書き分け

 要約筆記の質的な分類として、内容重視型、雰囲気重視型の2通りに大別する。
 まず、内容重視型要約筆記は、話の内容(言語情報)を重視した筆記と定義する。話の内容とは、話の流れ・要旨などであり、いわゆる‘情報’と言うべき内容を、漏れなく間違いなく伝えることを目的とする。実質的な筆記とも言え、あらゆる要約筆記の基本となる。現在展開されている要約筆記の技術論の大半は、この内容重視型要約筆記に属するものと言えるだろう。
 対して、雰囲気重視型要約筆記は、話の雰囲気(非言語情報)を重視した筆記と定義する。話の雰囲気とは、場の空気、声のトーンなどであり、話の要点ではない情報を伝えることで、話者の人柄、言葉のニュアンスなどを感受し、より楽しむことができることを目的とする。内容がわかる、意味がわかる、ということだけでは不足な時が必ずある。話の流れがわかって、テーマがわかって、あらすじがわかっても、結局のところ、楽しい話は楽しめなければ意味がない。人がなぜ笑ったのかがわかったとしても、自分も笑えなければ意味がない。それはひとつの真理だろう。
 内容重視型は、知るための要約筆記。雰囲気重視型は、味わうための要約筆記。そのようなイメージで書き分けを考える。
 いずれの筆記も、話の流れがわかるように、内容をできるだけ落とさず、即時性を保って書く、といった要約筆記の原則的要素については変わりはない。しかし雰囲気重視型では、言葉の枝葉を加えて表記するために、話の内容部分を更に集約する必要が生ずる。これは、内容重視型筆記における確かな技術があってはじめて為し得るものである。即ち、より無駄のない筆記技術の習得が、要約筆記の質的向上のための必須条件となる。実際は、両型の要素を含んだ混合型をとる場合が多いだろう。そのあたりを明確に区別する必要はない。質的書き分けを意識し取組む上で、正しく速く伝えただけではどうしても満たされないものがあることを、改めて認識してほしい。

要約率の分類 ― 量の書き分け

 量的な分類をするにあたっては「要約率」という指標を用いる。「要約率」とは、元となる発話の文字数に対する、要約筆記文の文字数の割合の百分率をもって表される値と定義する。ここでの文字数とは、漢字・仮名・句読点等を取り混ぜての数を指す。また、‘元となる発話の文字数‘とは、発話内容を標準的な日本語表記のもとに逐語的に文字化した際の文字数とする。したがって要約率の示す値は、内容の要約度合とは必ずしも合致しない。同内容の記述であっても、仮名使用の度合、記号使用の頻度等によって算出される要約率の値は変わってくる。また話のスピードが変われば、同じ要約率でも筆記量は大きく違う。要約率の値はあくまでも目安としての位置付けということになる。しかしながら、書き分けにあたってのイメージを得やすく、また評価基準としてわかりやすいため、便利な指標である。
量の書き分けをするためには、自分の筆記速度を把握した上で、話のスピードや内容などに合わせて要約率の加減が適宜できるという技術が必要となる。ただでさえギリギリしか書けない要約筆記において、要約率を下げる場合、平均的な筆記は相応しない。まとまった省略も余儀ないこととなる。そのため、話の内容および緩急を考慮し、それに対応させた筆記が求められる。
要約筆記者は常々、できるだけ多くの情報を伝えたいという思いをもって仕事にあたっている。そのため、‘多く書きたい’というところからなかなか離れられない。しかしながら要約筆記の意義は、あくまで利用者にとっての利用価値によって決まる。その場で要約筆記を利用する目的、それにそぐう筆記内容でなければ、筆記量が多くても意義は少ない。筆記量が多いほど含蓄内容が多くなり、情報価値が上がる傾向は確かにあるが、それは決して常には比例しない。もちろん中には、筆記量の多さを求めるケースもあるだろう。逆に、筆記量を下げてでも即時性を求めるケースもあるだろう。求める要約筆記が様々である以上、要約筆記者の技術にも幅が必要だ。要約率の書き分けもその要素の1つとして重要である。
要約率を下げることの難易度は高い。かなり意識的な訓練が必要となるだろう。もっとも、現場で要約率を意識して筆記するということを想定しているわけではない。要約率を意識した筆記練習は、様々な内容・形態の派遣に対応する技術力をつけるためのものである。その訓練は、通常の筆記技術向上のためにも効果的だと考える。
パソコン要約筆記においては、手書とは違う要約率分類の考え方が出てくる。連携入力が可能なパソコン要約筆記においては、そのチーム構成の取り方によって、高い要約率の筆記が実現できる。したがって、設定できる要約率の幅はかなり広い。1人入力の場合であっても、手書と比べれば、設定できる要約率の幅は広いと言える。このことから、パソコン要約筆記においては、依頼された要約率を基準に派遣形態を決定するというシステムが有効に機能し得る。要約筆記者の数と予算が限られている以上、その活用法である事業システムには工夫が要される。
低い要約率での筆記技術は将来的に、第3者の雑談のようなサブ情報の情報保障など、要約筆記の多岐なる発展を考える上で、不可欠な技術となってくると予想される。その意味でも当技術は検討に値する。


Last Update 2011-05-07 (土) 14:29:41

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