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Ⅱ-(ⅴ)表記技術

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Ⅱ-(ⅴ)表記技術

表記技術とは

 表記技術とは、発話された単語をそのまま用いつつも、筆記量の少ない表記に変換し、筆記時間を短縮する手法である。内容はそのままに、如何に短い時間で表記するか。もちろん、速く手を動かして書くといったことではない。表記方法の工夫によって筆記時間を短縮する、すなわち同内容を短時間で表出するための技術が表記技術である。これを文字数の短縮と混同してはいけない。短縮するのはあくまでも筆記時間。文字数と筆記時間の間にも確かに相関はあるわけだが、その相関が顕著なのは、主に要約の過程においてである。
詳しくは後で述べるが、表記技術は、要約技術によってある程度整頓された内容に関して、それを表記する過程で加える工夫ということになる。筆記時間の短縮を主たる目的とするが、読みやすさ向上などの目的でも用いる。この表記技術は、その他の要約筆記技術を利用した場合でも当然に併用されるべきものである。
なお、ここでは手書の要約筆記に限定して話を進めるが、他の媒体を用いた要約筆記でも考え方は類似となる。

同内容同語変換(表記の工夫)

(1)漢字・仮名変換(各論参照)
 特に画数の多い漢字を含む語について、全部もしくは一部を仮名に変換する手法。基本的には筆記時間短縮のための手法であるが、読みやすさ向上の目的でも用いる手法である。
概して漢字使用に関しては、意味が掴みやすくなるメリットがある反面、筆記時間が長くなるというデメリットがある。漢字を適宜混ぜたほうが読みやすくなる点は否めないが、あくまで要約筆記の本義を第1に考えるに、漢字使用の適不適の判断にあたっては、筆記時間という要素を充分考慮する必要がある。
 留意すべきは、要約する中で情報量が低減し、原話では通じるものが仮名書の筆記では通じなくなくなる場合である。漢字使用には、省いた情報を補完する意義もあることを認識し、そのことを考慮した上で、要約の仕方・漢字使用を併せて考えるべきである。「前後を省く代わりに漢字で表記」「省かない代わりに仮名書を選択」という発想が必要。この点にさえ注意すれば、仮名書の多用をためらう理はない。折衷策として漢字仮名混書も有効だが、字面的にわかりにくいことが多く、積極的には推奨しない。

①漢字・仮名の書分けの考え方
 まず、漢字で書くべきもの、仮名で書くべきものを判断する。そしてそれ以外のものについて、その状況下での漢字仮名のメリット・デメリットのバランスを考慮して書き分けていく。平仮名と片仮名の使い分けは、概ね一般の使用基準に準ずるが、本来片仮名で表す語以外に、地の文と区別し、語のカタマリであることを表現するために片仮名を使用することも有効である。
 なお、漢字の音読み・訓読みの別をもって、平仮名・片仮名を区別して使用するのは適していない。見慣れない字面は読みにくいものである。特に語中に片仮名混ぜるとき、分離効果を生む可能性を考慮しなくてはいけない。

②漢字で書くべきもの・仮名で書くべきものの例
[漢字で書くべきもの]
  ・漢字のほうが速く、読みやすく、わかりやすい場合(仮名にする理由がない)
  ・同音異義語があり、その単語を特定し得た情報を落とした場合
    (元の話では前後から明らかに判断できるが、要約筆記文においては判断できなくなる場合)
  ・仮名で書くと、地の文との区別がしにくくなる語

[仮名で書くべきもの]
  ・一般的に仮名が用いられるもの(ただし、漢字のほうが速い場合は漢字で書けばよい) 
  ・わからない単語(わからないなら、漢字にしてはいけない。間違った意味を付加することになる)
  ・未確認の固有名詞
  ・漢字に比べて圧倒的に速い場合
  ・同形異音語があり、文脈では判断できない場合
  ・同音異義語があり、文脈では判断できない場合

③漢字・仮名のメリット・デメリットの例
[漢字のメリット]
  ・読みやすい(多少の崩れ字でも読み違えにくい)
  ・字面で読みとりが可能
  ・意味が明解になる(わかりやすい)
[漢字のデメリット]
  ・遅い
  ・間違えた時の誤解度も大きい
  ・同形異音語の区別がつかない
[仮名のメリット]
  ・速い
  ・発声音を明確にする
[仮名のデメリット]
  ・パッと見て読みにくい(読み間違いやすい)
  ・同音異義語の区別がつかない
  ・字形の癖による読みにくさが強く出る 
   
④漢字仮名比較
 一般的に、読みやすさ、わかりやすさにおいては、漢字は仮名に優る。したがって、漢字の使用率を下げることは読む側の利便を損なう可能性がある。しかしながら書く速さにおいては、多くの場合で仮名書は漢字書より大幅に速い。
 漢字仮名の使い分けにあたっては、漢字仮名の筆記時間の差を基準とし、その差に見合ったメリットがあるかないかで漢字の使用を判断していく。基準を筆記時間に置く理由は、読みやすさ、わかりやすさという要素は主観に左右され、定量化しにくいためである。
 単語同士を見比べて、仮名が良い、漢字が良いと言うのではなく、仮名にしたぶん補ったものを含めて、トータルで判断することが大切である。多くの場合において漢字は遅い。かといって仮名にするのに抵抗があるものも多い。よってなおさら、仮名書できるものは思い切って仮名にする。

⑤漢字使用と常用漢字
 非特定の利用者を対象とした要約筆記においては、読めない利用者がいるかもしれないという配慮のもと、常用漢字表外の字・音訓、難しい漢字は基本的には使わないという共通理解が妥当である。ただし慣用的によく使うものであれば構わない。そのあたりは要約筆記の目的に沿った判断を下せばよく、その意味では、常用漢字表に準拠する必要は全くない。
 
⑥仮名書のためのテクニック
 仮名書を使用するにあたって、その短所を補い、より読みやすく表記するために、以下のような手法がとられる。手書ならではの技術。
(原文 「あのきかいはこしょうしている」)
画像の説明

(2)送り仮名の省略
 送り仮名を一般使用よりも減らす手法。基本的な送り仮名の付け方は、日本語の送り仮名の規則(『送り仮名の付け方』(S56.10.1.内閣告示))に準ずるが、文脈等から、送り仮名をなくしても自然に読めると判断できる場合は省略が可能である。送り仮名の省略によって軽減できる文字数は1つの単語につき平仮名1文字程度にとどまるが、その蓄積は小さくない。

(3)略語・略称
 主に外来語や固有名詞などにおいて、その語形の一部を省略して簡略化する手法。通例、1つの単語に対応する略語・略称の形は限定的であり、発話単語への可逆性があるという理由で、同内容同語変換に分類する。略語化することによるニュアンスの変化などは、時に考慮する必要がある。

①全国標準略語(要約筆記固有)
 要約筆記の現場で多用される語に関して、略語の使用が認定されている。その使用に関して逐一利用者の許可を取る必要はないが、利用者に対しての呈示は必須である。2007年の時点で、全国標準として認定されている略語は、中失(中途失聴)、ループ(磁気誘導ループ)、コミ(コミュニケーション)、ボラ(ボランティア)の4個。

②一般
 一般的に用いられる略語・略称は使用して構わない。ただ、一般性についての線引きは難しい。広範性が微妙なものは、文脈から判断できる場合に限って使用する。

③専門
 各分野の領域においては当然に使われている略語を使用する。利用者がある程度限定されている場合などで、使用の適が判断できれば使っていい。この多用については反対もあるだろうが、何の世界においてであれ常用されている略語は、概して上手くできている。その場の必要に応じて、暫時略語・略語を作って対処するくらいならば、元々使用されている略語を使う方が断然良い。ただし、使い方、使う条件などは考慮する必要がある。

(4)全国標準略号
 略号も、簡略化の手法の1つ。1文字を丸で囲んだ記号で表す。要約筆記特有の表記であり、完全な可逆性がある。2007年の時点で、全国標準として認定されている略号は10個。この使用に際しても利用者に対しての呈示は必須である。


Last Update 2011-05-08 (日) 01:48:56

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