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Ⅱ-(ⅵ)変換技術

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Ⅱ-(ⅵ)変換技術

変換技術とは

 変換技術は、同内容異語変換と、同内容異形式変換に分類できる。
同内容異語変換とは、話の内容、要素は変えずに、言葉の選びを工夫することで表記時間を減らす手法である。話のコンテンツそのものを省くわけではないという意味で、一応可逆性のある処理に分類する。同内容を、より短い言葉に置き換えることによって筆記時間を短縮するのを目的としているが、字数減は必ずしも筆記時間減を生まない。筆記時間が変わらず、読みやすさも改善しないのであれば、話者の語選択を尊重する意味でも、言葉を換える理由はない。短い言葉に置き換えて簡潔にまとめたつもりが、漢字の選択によっては逆に筆記時間を増やす場合もあるため注意が必要である。
 同内容異形式変換とは、文章の形式を変換することで、筆記量減による筆記時間短縮を求める手法である。日本語独特の長い語尾の処理、助詞の的確な使用等がポイントとなる。この処理によって当然ニュアンスは大きく変化するが、その分大幅に筆記内容を充実させ得るという理屈。少ない言葉で多くを表現するという日本語の表現ポテンシャルを如何に活かせるかというところで技術力が問われる。 

同内容異語変換(言葉選びの工夫)

(1)熟語化
 主に句・節を対象とし、その内容から導かれる熟語を使用し書換えることによって、筆記量を減らし、筆記時間を短縮する手法。あくまでも時間短縮が目的であって、文字数減少が目的ではない。確実に筆記時間が減少する置換を選択するべく、注意が必要である。  

(2)類語への置換
 単語単位で、同内容をより短く表す別の言葉に置き換える手法。これも、目的は筆記時間の短縮。違う単語を使うわけだから、当然ニュアンスなどの違いは出る。そこは自覚すべきだが、こういう個々の単語の処理で細かく時間を短縮することで、大きな流れを落とさずに済む。特に接続詞など、その語選択に話者の思い入れが入りにくい部分は、積極的に置換して良い。

(3)指示語への変換
 指示語の活用によって、同等内容の反復筆記を避ける手法。効果的な使用が可能だが、文章構成自体に工夫が必要であり、技術力が求められる。

同内容異形式変換(文体の変換)

(1)丁寧体→普通体
 丁寧体(敬体)の普通体(常体)への変換は、要約筆記の基本的処理である。その目的は主に、筆記量の減少と、文章の簡素化による読みやすさの向上にある。したがって時間的空間的条件如何によっては、丁寧体による筆記を妨げる理由はない。通常の文書における文章では、文体は当然に統一するが、要約筆記において文体を統一する必要は必ずしもない。発話のニュアンスを投影する意味で、時に丁寧体を交えることも有効である。
 丁寧体は文末を“です”で結ぶ形が多いため「ですます体」と、普通体では文末を“だ”“である”で結ぶことから「である体」「だ体」とも言われる。さらに丁寧に、文末を“ございます”で結ぶ文体を「でございます体」として区別することもある。要約筆記においては、丁寧体から普通体への変換が主な作業であるが、より丁寧な丁寧体(超丁寧体)から、ワンランク下の丁寧体に変換するというパターンもある。
 この丁寧体から普通体への変換には、美化語の一般語化も含む。

(2)位相差→平坦化
 位相差とは、話し手の性別や職業などの社会的要因によって生じる語体の差であり、その言葉遣いのそれぞれを位相語と言う。いわゆる男性語、女性語なども位相語の一種である。要約筆記においての位相の考え方は、これまでの他の文体に対する考え方と同様である。基本的には気にしないということ。敢えて位相語を活かす必要もなければ、消す必要もない。筆記の目的に沿うように適宜書き換え、可能であれば時に交えて発話の情緒的要素を加味する。文体の混在を問題としないのと同様、位相の混在も問題としない。
 
(3)修辞法→簡素化
 修辞とは、言葉の工夫によって文章に様々な情緒的効果をもたらすことであり、そのための表現技法を修辞法という。代表的な修辞法には、「比喩法」「擬人・擬態法」「倒置法」「反語」「体言止」「緩叙法」などがある。一般的な要約筆記においては、意味内容の伝達を優先する意味でも、理解しやすい文章を目指す意味でも、修辞的表現に関しては、よりストレートな表現に変換するのが基本である。修辞技法は多様であり、その処理方法はそれぞれの技法の特徴によって異なる。
 要約筆記で頻出の修辞法としては、「緩叙法」が挙げられる。「緩叙法」とは、逆の意味内容を否定することで、間接的に真の主張内容を表現する方法のことである。二重否定の一種と考えて良い。変換の方向としては、二重否定を肯定の平叙文の構造に変換することになるが、単純に「二重否定=肯定」と扱うのは危険である。「緩叙法」の修辞効果としては、主張内容を強調する場合と、逆に抑制する場合がある。その状況における表現意図をよく理解したうえで処理しなくてはならない。 
 なお、修辞法の効果を逆に、要約筆記の技術として利用しているものには、「助詞止」「体言止」「省略」等がある。

(4)助詞止・体言止
 助詞止は、要約筆記において有効な手法である。余白で読ませるために、的確に助詞を使う技術(日本語力)が求められる。基本的には文章は完結させるのが良いが、助詞止を利用できる場面はそう多くない。そのため、使えるところは使うという考え方で良い。ただし、読み手が考えないと読み取れないような表現ではいけない。
 体言止は、文章の完成度で言えば助詞止より落ちる。文意が、その文単独では読み取れない場合が少なくないため、多用は不適である。それまでの筆記の流れを把握した上で、可能な部分ではさみ、流れで読ませる。
 助詞止、体言止の類は、流れがきちんと書けた上で有効に働く表現方法である。つまり、元来多用できるものではない。筆記の遅れに困って連発することは避けなければならない。また、体言止多用者の中には、自分だけが理解して言葉の不足に気づかないケースもある。体言止のつもりで、メモ書をしていることのないよう留意する。とはいえ、助詞止・体言止は話にリズムを生む作用もあり、上手く使えば効果的。使えそうな場面では積極的に用いてみたら良い。
 余白を読めることが前提ということで、‘同内容’の処理に分類する。

(5)「?」「!」「・・・」で補完
 疑問・不審・不理解などの要素を疑問符で、驚き・感嘆・感動・喜びなどの要素を感嘆符で表現することができる。疑問符、感嘆符を用いる代わりに、その要素を表現していた単語、助詞などを削るという手法。また、文字では表現しにくい話者の語調などの情報を補完する。多用は禁物だが、ちょくちょく効果的である。
 また、文中もしくは文末の一部を省略し、代わりに「・・・」を挿入することで、継続性・連続性を表すほか、情緒的含みや余韻を表現することができる。本来、修辞法の1つとして利用される技術であるが、筆記量減を目的とした要約筆記技術として考えて良い。もちろん、純粋に情緒的要素を加味する目的で使うこともある。


Last Update 2011-05-07 (土) 14:39:50

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