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Ⅱ-(ⅶ)要約技術

本文開始


Ⅱ-(ⅶ)要約技術

要約技術とは

 要約技術は、内容の概括・内容の省略・文章の整合に分類される。
 これまでの処理では曲がりなりにも発話内容が保持されていたが、ここからの作業は、話のコンテンツの明らかな低減を伴う、非可逆的な処理である。その時どきの状況に合わせた慎重な処理が求められる。
 内容の概括とは、話の内容を概略化して書換える手法である。話の中身と話者の意図を正しくつかむことが前提となり、加えて適切な書換を即座に抽出するための日本語力が必要となる。対して内容の省略とは、文の成分の一部または全てを省く作業である。概括と省略は表裏一体で、明確な区別はない。ここでは分類上、原話から語・句・節の単位を単純に落とす処理を“省略”、それに何らかの書換えを加える処理を“概括”と考える。
 文章の整合とは、要約筆記文の文章を整え、日本語として読みやすい文章を構築することである。主に、原話そのものの不整合の整頓、要約筆記作業の過程で生まれた不整合の調整の2面がある。要約作業、変換作業を進めつつ、題目関係、主述関係、接続関係などがはっきりわかるように文を組み立てていく。スクリーンサイズに見合った文の長さにまとめることも肝要である。
 内容の概括・省略に際しては不確定因子が多く、その処理基準を示すことは難しい。要点を言うとすれば、話全体の流れを抑えること、文の各成分の果たしている役割を理解すること。それが本題かどうか、省いて意味が通るかどうか、文の流れに影響するかどうか、そういったことを考慮し、判断していくことになる。
 注意すべきは、“部分の省略”である。概括の一環として、発話の一部分を残して処理することがよくあるが、それを下手にすると、原話の意味合いと大きく食い違う意味を付加してしまうことがある。

内容の概括・省略

(1)修飾語の概括・省略
 基本的に、被修飾語は修飾語に優先する。日本語における修飾語は常に被修飾語の前に位置するため、修飾要素が多い場合、被修飾語の前に修飾語が長大に続くことになる。このときに、前置の修飾成分にとらわれて、後置の被修飾語を落とすことがないよう気をつけなければならない。被修飾語の筆記に備えつつ、修飾語を処理していくことになる。置換できるものは置換し、概括できるものは概括する。とにかく書き遅れないように積極的に処理を進める。それで時間の余裕ができた場合は、落とした要素を後から追記すればいい。
 ただし文章の内容によっては、修飾語の方がむしろ話し手の主張の中心であることもある。その場合は当然、主張の中心となっている要素を優先的に筆記する。被修飾語が文脈から予め推測できる場合に、このような場合が起こりうる。その被修飾語が直前に既出されていることが多い。何を優先して筆記すべきかは結局のところ、その文脈と状況によって判断するしかないということになるが、被修飾語が推測できるからこそ修飾語優先が生じるわけであるから、やはり最初の結論は変わらない。
 また修飾成分の中には、省略してはいけない要素がある。それを欠くと基本的な事実関係が伝わらなくなるような場合には、省略はできない。文章において、そのような性質を持つ要素のことを「補充成分」と呼ぶこともある。特に連体修飾において、欠かせない修飾語をとる例は多い。
 どんな要素が補充成分になるかは、述語の種類によって決まってくる。日本語における述部は文の終末にくる。つまり修飾語を聞いている間は、修飾要素がどのくらい続くのか、被修飾語は何なのか、どんな述語にまとまるのかがわからない状態で筆記しなくてはならないということである。適切な処理のためには、文の着地点を予測する力も必要となる。

(2)重複の概括・省略
 同じ言葉、同じ要素の重複は当然に省くことができるが、「たぶん~だろう。」のように、「たぶん~。」あるいは「~だろう。」としても推量の意味が残る場合がある。こうしたケースでは、どちらかの要素のみを残す形で処理することができる。

(3)主格・述語の概括・省略
 主格・述語は文の成分の中の中心成分であるが、前後の内容との兼ねあいを考慮し、省いても成り立つ場合が少なくない。多くは、文脈における前述との兼ねあいによって、省いても充分に推測されるというケースである。なお、“省略できる”状況というのは、省略した言葉を特定できるということを求めているわけではない。省略された要素も含めて充分に状況が把握できるということが大切である。
省略できることの多い主格は一人称。

(4)具体例の概括・省略
 複数の具体例が列挙される場合、如何に落とすかという聞き方をすることになる。少なくとも、全ての例を記憶しようという方向に頑張るのは得策ではない。それをすると多くの場合、筆記が破綻する。並列に複数の例が提示された場合は、まとめるか、端折るというのが基本的な処理となる。例示されたものに内容の差があれば、その中で最も象徴的な例、わかりやすい例を選ぶ。差がない場合は、拾いやすいところを拾えばいい。具体的事例を客観的概説に書換える処理も有効である。
 細かい数字などのデータ呈示も具体例の一種。落とせない数字というのも時にはあるが、多くの場合、数字の提示は、ある事実関係について、いかに多いか(少ないか)、いかに増加(減少)しているか、ということを説明するために補助的に用いられる。したがって、優先上位はあくまでも、根幹となる事実関係。それが的確に書けていれば数字を書く必要は必ずしもなく、書くとしても概数で構わない。数字にとらわれて根幹を見失わないよう注意が必要。
 ただし、その具体例そのものが極めて象徴的な場合は、それを書いて説明を省くという処理のほうが適している場合もある。   
 すべてはシチュエーションによって。3つ並べてこそ生きる例というようなものもある。
 現実問題として、多数の例のうち拾えるものを1つ2つ拾う、という処理は妥当だが、あまたの例から1つを抽出した場合、それが代表的な例として映ることを考慮する必要がある。下手に拾うぐらいなら拾わないほうが誤解がないというケースもある。部分に手を出して全体像を歪めないよう、書き方には工夫が必要である。

(5)定型的表現の概括・省略(各論参照)
 日本語には、きまり文句のような言い回しが数多くある。特にビジネス等の場においては、場面に応じて相手への配慮や敬意を示す定型的表現は多用される。それらの表現は概して形式的で、それ自体に特に深い意味がない場合が多い。したがって省略しても、伝達される話の内容自体に支障が出ることは少ない。しかしながら多くの定型的表現は、話を円滑に進める上で、またその場における相手との社会的関係性を保つ上で、効果的な役割を果たしており、省略しても支障がないとは言い切れない面もある。処理にあたっては、その言葉が話の主旨や流れに直接くみしているかどうかを主基準として、その言葉の持つ効果を考慮しつつ判断していくことになる。

①前置きの言葉
 特に話言葉の中で多用される表現要素に前置き的な発言がある。前置きとは、主たる発言内容に先立って、それに対する話者の注釈要素を加えるために、前置あるいは挿入的に用いられる言葉である。語あるいは句の単位のものから、かなり長い文章のものまで、その形態は幅広い。日本語における前置きは、基本的には話す相手への配慮に根ざした要素である。それ自体に伝達すべき内容は含まない言葉であるが、本題の伝達効果という点で重要な役割をはたすことが多いため、完全な省略は必ずしも適さない。前置きにも色々なタイプのものがあるが、ここでは2タイプに大別して処理を検討していく。1つは、謝意や謙遜など、話者の心理的スタンスを表すためのもの。もう1つは、話の流れをより理解しやすくするためのものである。
 まず、前者の処理について。謝意・謙遜を表す前置き表現は数多い。短いものでは、「すみませんが…」「僭越ながら…」などがそれにあたる。これらの表現の多くは、実際に謝罪やへりくだりの意を表しているというよりは、言葉の伝達をより柔らかく行うための技法と考えるほうが妥当である。したがって処理にあたっての考え方は、丁寧語の処理と類似する。基本的には省略処理であるが、その際に原話のニュアンスを覆すような表現を用いないよう配慮しなくてはならない。特に、定型表現の一部分の単語を抜書きする処理には弊害が多く、注意が必要。
 次いで後者の処理について。話の理解を補助するための前置き表現に関しては、その意図をくんで簡潔な表現に置換するのが基本となる。場合によっては省略も可だが、読みとりの補助となる要素はできれば入れたいところ。ただしその時、話者の言葉を生かす必要はない。あくまでもその場でのその言葉の役割を重視する。接続詞をうまく使うと有効なケースが多い。
 前置きの言葉のパターンは多様であり、処理の方法はあくまでも状況によってということになるだろうが、いずれの場合も安易に書き出さないと言うことが大事である。言葉につられて頭を書き出してしまうと、きりのいい形まで書かざるを得なくなってしまう。

②長い肩書
 本人が言うにせよ、他人が紹介するにせよ、肩書きの後にはたいてい名前が言われる。一般的には、肩書よりも名前を優先すべき場合が多い。名前を落とさず書くことを考え、肩書は略すという処理をする。どこかにはっきり肩書が記載されている場合には省略も可となる。名前を先に書き、肩書を括弧に入れる処理も有効である。どのくらいの文字数なら書けるか、自分の筆記スピードを考慮し、できる処理の見当が付けられるようになると良い。
 逆に、対象者がその肩書の立場のために出席しているような場合は、肩書を優先する。知事や市長など、対象者が公人の場合は名前の省略も可である。

③あいさつ言葉 
 あいさつ言葉も必出の定型表現である。話の本題でないことは明らかだが、通例あいさつの類は話の始めや終わりに位置するため、全く書かないと流れがおかしくなる。したがって、大きく省いて速く処理することが必要。あいさつの類も、社会的な人間関係に根ざした発話であり、その語義よりもむしろ、そのニュアンスの伝達が本義であると言える。特にその傾向は、そのあいさつが儀礼的になればなるほど顕著になる。儀礼的なあいさつには、慇懃なニュアンスが付き物であるが、下手に要約すると、ぞんざいにして意味のわからない文章になりかねない。前書きの処理と同様、安易に書き出さないこと、そして原話のニュアンスを壊さないような処理をすることが大切である。
 頻出の慣用表現も多いため、手ごろな筆記パターンを持っておくと良い。   


Last Update 2011-05-07 (土) 14:40:25

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